話題の乱視をまとめて検証
うつ病の患者さんは、出来事を破局的にとらえ、自分を責めるようになる特徴があります。
この認知の歪みを訂正することができるようになればよいのです。
ここで、から認知療法からという精神療法が有効になります。
それによって、好ましくないストレスを好ましいストレスに変えることができれば落ち込まないですむのです。
ものごとをつねに楽観的に考え、行動するようになれば、から苦しみからがから楽しみからに変わりうるのです。
私は日々の診療で、うつ病の維持療法や予防療法の段階の患者さんに対して「つねに自分流でいきましょう」「あるがままでよい(森田正馬と「なるようになる」一里耳すの(ジョン・レノン)」「これがベストの道、この外に道なし、この道を行く(武者小路実篤)」こと話します。
おこがましい言い方と思われるかもしれませんが、偉人の格言を引用して患者さんに語りかける。
これが私の精神療法の骨子です。
楽観主義者は長生きをするという研究報告さえあるのです。
このような沈んだ気持は、程度が軽い場合は、自分ひとりで悩み、他人に気づかれないことが多いのですが、次第に強くなると不安も強くなり、自分で親しい人たちに訴えるようにもなります。
うつ病の症状は、抑うつ状態という状態像を現します。
この状態の基本は気持の沈みにあります。
その表現にはさまざまな言い表し方が用いられることはここのはじめに触れましたが、一般的には憂うつ、陰気、うっとうしい、重苦しい、暗い、晴れ晴れしない、沈む、気がめいる、悲しい、寂しい、希望がない、どうしようもない感じ、自分がつまらない、これから先が心配、どうして人はあんなに楽しそうにやれるのだろう、ものごとに(今までのように)興味が湧かない、ということが多いのです。
しかし前にも述べましたように、必ずしも直接的に「憂うつ」というばかりではありません。
これは患者さんの社会的・文化的背景に左右されるところが大きいから。
しかし、程度が強くなるにしたがって、言葉ではいわなくとも、顔つきや姿勢、話し声、ささいなことで涙を流すなどの態度や様子に現れるようになります。
昭和二十年代以後活躍した作家・梅崎春生は、昭和二十三年『衰頚からの脱出』のなかで「生活やその他のものに疲れて、何をする気もしなくなり、ほとんど全く消耗し、虚脱したような状態になることが、近頃の私にときどきある」と書いています。
また昭和三十三年『私のノイローゼ闘病記』のなかには、「いつ発作が起きるかという不安と緊張でだんだん外出するのがいやになり、ことに独りで歩くことがこわくなって来た。
他人に会うのもいやで、厭人感がつのってくる。
一日の中一時間ほど仕事をして、あとはベッドに横になり、うつらうつらとしている。
考えていることは『死』であった」とうつ状態の体験をつづっているのです。
明治の天才歌人・石川啄木は、たびたびうつ病に悩み、苦悩しながらその心境を歌によんでおります。
抑うつ気分がよく現れている歌を引用してみましょう。
かなしみと言はば言ふべき我ひとり泣く。
このように傑出した作家や画家・芸術家の作品内容から精神的悩みを理解することを病跡学といっております。
抑うつ的になったときの気持は、この歌を読むとありありと共感できるといえまず、これから先、生きていく自信がなくなり、自分の能力や仕事、その他の事柄に今までもっていた自負心がなくなります。
「自信の喪失」は未来がないという感じをもち、過去が逆にいわば肥大し、後悔ばかりするようになります。
「あんなことはしなければよかった」とくり返し思い、口に出していうようになります。
さらに、自分はつまらない、だめだ、ものごとがうまくいかないのは自分のせいだ、病気ではなくて自分が怠けているのではないか、会社に申しわけがない、友だちや家族に申しわけがない、といって自分を責めるのです。
これを「自責念慮」といいます。
さらに自分が大きいあやまちを犯したと考え、皆に謝罪しなければならないと考え込むようになります。
実際には、本人に何の罪もないことでも、自分に責任を負わせ、自分を苦しめです。
このような自責感は自殺念慮と隣接しているのです。
わたしの受け持ちの五十六歳の者さんは、二○年前の農地の区画整理に際し、くい打ちで自分がごまかしていたといい、こんな気分になると、誰も同じようなことを考えて悩むものです。
これを抑うつ思考といってこのように抑制がかかってくると、言葉が思い浮かばず他人との会話が平素のようにスムースにいかず、趣味、娯楽に対しても活動が低下し、興味もなくなります。
会話はとぎれとぎれとなり無口になってしまいます。
それがもっと極端になると何もいうことができなくなってだまり込んでしまいます。
うつ病にとって気分の問題と同じように重要な症状に「抑制症状」があります。
これは、ちょうど油がなくなってしまった歯車が、きしんで回りが悪くなり、回らなくなった状態にたとえることができます。
抑制症状は抑うつ気分と一組になっているといっても過言ではありません。
抑制がかかりますと、「本を読んでも頭に入らない」「すぐ忘れる」「バカになってしまった」などと考えがなかなか進まなくなります。
しばしば「おっくう」になり、やる気がない、根気が続かない、人に会いたくない、簡単なことでも決断できない、などのことを悩むようになります。
患者さんからよく聞くことでうつ病になって困ることの一つは、どうしても自分で決断を下さなければならない場合であるということです。
その点で、うつ病は「二者択一の悩み」であるとい責めております。
これを「罪業念慮」といっております。
うつ病になるとよく、自分が今後生きていくのに必要な金銭や財産がなくなってしまったと主張する「貧困念慮」などが起こったり、身体が不治の病気、たとえばがんになった、どのような治療を受けてもだめだと思い込んでしまう「心気念慮」という症状も現れます。
以上のような自責、罪業、貧困、心気的な考えは、しばしば妄想的に確信してしまうようにもなるのです。
これをまとめて抑うつ思考、抑うつ妄想と呼んでおります。
索行動の変化作家・Yは「諺の一年」という短編随筆のなかで、うつ病のとき考えが進まないのに原稿を書く苦労を次のように書いております。
弓神経疲労回復の書』と銘打った本が出てから、私はしだいに欝病の気配が濃くなってきた。
随とはいえ、文芸雑誌に私としては長い文章を書くのは一年ぶりのことである。
筆が渋って、『三十枚くらいしか書けそうにないなあ』というと、編集のTさんは恐い顔をして、『それじゃまるで老大家みたいだ』読者からの手紙を部屋一面に拡げて、『虚構の春』を書いていた太宰の姿を見たという友人の文章を読んだことがあるが、窮余の一策としては上策である。
そのうち、私は本格的に寝込んでしまった。
新しい年がきたときには、十五キロ目方が減り、大袈裟にいえば幽鬼のような相を呈してきた。
そういう最中でも、原稿を書かなくてはならぬことが起こる。
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